和合さん。ある土曜日の昼過ぎに、福島駅の新幹線の改札口で、声を掛けられた。
振り向くと、あるイベントでご一緒した合唱団の方だ。隣には可愛らしい、ピカピカの制服を着た女の子が、携帯電話を片手に挨拶をしてくれた。
この女性はこの子の祖母なのだろう。この春から新入生だそうで、東京から福島まで一人でやって来たと笑顔で話してくれた。無事に着いたことをお母さんに報告していたのだろうと思った。
春から通う中学校の制服ですと教えてくれた。その姿を見せたくて、それを着て福島までやって来たのだと思うと、何だか私の顔までほころんでしまう。「合唱やっているんです」「中学校でも合唱部に入ります」とまたお辞儀をしてくれた。
新幹線に乗り込む。いいなあ、今日は最初からいいことあったなあと、にやにやして座る。今度は通路をはさんで隣の座席に、窓を夢中で眺めている、一人だけの少年が居た。私と目が合ったら、にっこり。
子どもたちは、春に旅をするのだ。
そのままうとうとして、気がつくと上野まで来ていた。
満開の桜だ。目が覚めた。はっきりと分かった。福島はこれから、つぼみが開くのだ。
(初出「福島民報」誌連載より)