「不屈の日本人」(イースト・プレス)/関厚夫

 福島に生まれ育った。いわゆる陸奥(みちのく)の良さを特別に意識したこともなく、それまでを暮らしてきた。

 地震、津波、原子力発電所の爆発、風評被害…。震災を経験して変わった。故郷をこんなにも愛していたのだと初めて分かった。あの日からもうじき六年。燃える想い。心の中の火の種はどこからやってくるのか。歳月を経て、あらためて考えていた日々の折に、本書と出会った。

 日本の原風景とは何か。答えを探す旅を重ねて、書き上げた渾身の書。この東北における歴史の野辺を自らの足で歩き続け、ジャーナリストとして機敏に動き、過去から未来へのルポを書き続けた。

 かつての偉人たちの足跡を訪ね歩くことで、様々な道しるべと出会っている心の瞬きがある。「我々報道に関わる者の天命は、丹念かつ間断なくその物語を伝えること」とまえがきで語っている。長い時をかけて、人々のかつての季節をめぐろうとする情熱に、震災において空へと旅立っていった数多くの魂へ、想いの芯を捧げようとしている姿勢が感じられた。

 奥州藤原氏、岡本太郎、円谷幸吉から、現代の大谷翔平まで…。東北の数多の偉人たちの生き方に通底する何かがある。読み進めているうちにふと浮かんだ。これらの人物たちのそれぞれの心のどこかに、必ず奥深い雪景色があるに違いない、と。故郷の凍てつく原野の厳寒を知るからこそ、誇りと生き抜く力をどんな時にもみなぎらせることが出来るのではないだろうか。何度も登場する「情張」(じょっぱり)の精神の源は、厳冬こそにあるのだ、と。

 筆者は願う。本書を読み終えた折に「不屈に類した言葉が想起されていることを」。板画家の棟方志功のこの言葉が迫る。「人間ではなく、鬼のやるような仕事がしたい」。化け物になりたい。稀代の芸術家の怒りと執念とが宿った彼の背中こそは鬼神のたてがみを有したのではあるまいか。私たちは夢中にならなくてはいけないのだ。何に。道を生きることだ。胸の埋火がかあっと炎をあげた。東北人の私の心に食らいついた。

( 初出 産経新聞 文化欄 )

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2018.01.06更新