贈る

 五月の初めに息子が帰省。どこかへ行こうと誘った。人やビルの姿のないような自然の風景へ、どこか奥地へと行きたい。ならば、と早起きして無計画なドライブへ、いざ。

 昭和村へとたどり着く。「矢の原湿原」という看板が目に入り、すかさず直行。朝の九時前には、そのほとりに立っていた。鳥の声が響き渡る。ここは山の中腹にあり、携帯の画面は圏外を示している。来すぎてしまったかと二人で笑う。本日は暑くなりそうだ。途端にノドが渇いた。ジュースなど持ってくれば良かった。小道を歩くと、水の音がした。

 透明なペットボトルに何本もそれを汲んでいる人がいる。親子二人でそれに見とれていると一本ずつ手渡された。飲む。これほど美味しくて涼しい味はない。その方に教えてもらい、奥の泉へと。沼の水面は空と光と森を新鮮に映している。蛙。

それからしばらく経って、三軒茶屋で待ち合わせて食事をした。都会にて一人暮らしに精一杯。どことなく話の中に福島の山や川の影を恋しく思う感じがある。地下鉄の入り口で手を振って別れた。

 ふと雑踏にて、この泉を何枚か写真に撮っていたことを思い出した。帰宅して送った。水が変わらずに湧いていることを伝えたい。