がらんと
いつも通りに朝早く目覚めて、支度をしようと飛び起きる。ああ今日は休みなのだと気づく。久しぶりの自由だ。春眠暁を覚えず。
これほど贅沢なものはない。ゴロリ。しかし寝て過ごすのも勿体ない。朝の四時半。
実はかなり前から今日を待っていた。あれこれと考えていた予定が浮かぶ。庭に出てみるとまだ気温は低いが、やはり春暖の気配。
縁側に座り、何からしようかと考えているうちに、早くも小一時間が経ってしまった。
夜明け前のひんやりとした空の下を近所の自動販売機へ。コーヒーを買おうと試みる。
小さな鳥の声に誘われてゆっくりと歩き、わざと一本を買い求めたり、誰もいない踏切りを渡り、振り向いて線路の先を眺めたり。
さらに小一時間ほど過ぎていることに気づく。大丈夫かな、私は。帰りはいつも通らない道を行く。静かな家々の前を過ぎていく。
がらりと玄関の扉が開く。大きめの野球帽を被った少年が弾き出るように飛び出してきた。すぐにお母さんも。目が覚めたようになって、おはようございますと挨拶。笑顔。
再び庭に立った。二階を見あげる。今月の初め。演劇の勉強をしに東京へと引っ越した息子の部屋がある。がらんとした春だ。