〈追悼〉谷川俊太郎さん

詩を書くことは 3

詩を書くことは 真白い紙と向き合うこと
そこに 何もない平原を見つめること
そして ただ ただ 広がっていく光景に
しまいには 言葉を失って 呆然とすること

詩を読むことは 水源を探り当てること
汲めどもつきない 静かな湧出に見とれること
純白の 無言の世界の 真ん中から
あふれでる 文字の息を感じること

恐ろしいほど 大地と空に追われる様にして
ただ おろかに 歩き続けていこうとするとき
わけもわからずに
涙で 頬を濡らしてしまうことがある

そのとき 耳が 時間や季節や暮らしから
静かに 逃亡するようにして
紙のうえの土と砂と石ころと風から 拾い始めるのだ
私の影がここに確かに生きていた 記憶のつぶやきを

2025.04.02更新