〈追悼〉谷川俊太郎さん
詩を書くことは 2
詩を書くことは
難しくない いつも
そう思わせてくれた
あなたと 話していると
そして 時折に まなざしは
遠く 宇宙を見ていた
たったいま そのあたりを
歩いていらっしゃるかもしれない
詩を語ることは
難しい いつも
緊張していた それをめぐって
あなたと話す時だけは
時折に とても
冷酷な眼をした それは
シベリアに 震えながら立つ
針葉樹の影のように 寒くて凛として美しかった
詩を読むことは 優しい
好きなときに
好きなだけ それがいい
あなたは いつか ぽつりと話した
夜空も 大地も
時間も 季節も
真冬も 手のひらも
あなたのかわりに 在りつづける一日
詩を作ることは
時に 悲しい
星は 誰かの心を 包みこんで
本日の空に 輝いている
あなたの言葉たちは
旅立ちの朝に みな 新鮮に
深く 息をし始めただろう だって
あなたの不在は初めての出来事だから
悲しいこと
優しいこと
難しいこと
難しくないこと
在りつづけること
あなたが去った
今日を
生きること
二〇二四年十一月十九日