〈追悼〉谷川俊太郎さん
詩を書くことは 1
ときに 詩を書くことは
海と向き合う時間と似ている
潮の匂いがして 絶え間なく変わりつづけて
大きな水の瞳に見つめられて
ときに 詩を読むことは
森をさ迷う時と似ている
道の行方が分からなくなって ますます
その人生の先へと行きたくなって
詩を書く そして 読む
変わらない日常のなかに
小さな 椅子を見つけること
ゆっくり 風のように腰をおろして
物置にしまってある自転車を磨く
ひとつふたつ静寂のハーブを育てる
紫色の雲の写真を撮りつづける
ベッドで「極北の動物誌」を少しずつ読む