〈追悼〉谷川俊太郎さん
詩を書くことは 4
詩を読むことは
真冬の風景を歩くこと
寒々とした空気のなかで
静かなソプラノの声を聴くこと
鳥の群れに
フレーズのゆくえを
教わること
足のうらの
凍った土の感触を
味わいながら
木に塗られている
りんごの赤みから
逃げること
小さな教会の
一枚の牛の目窓を
見つめること
そこに映る
空や 光や 木や
雲のさびしさを眺めること
ガラスをつたう
不思議なしずくを見つめること
ふいに 胸からしぼり出された
涙の意味を知ること
たったいま
はるか 街を見下ろす 小高い丘で
あざやかな オレンジ色の凧があがる
すべての風を 自分のものにするように
雄々しく 歌いあげるように
気がつくと 息せき切って
異土の
緑色のあぜ道を行く
深い影がある
急に 立ち止まって
それは
見あげてしまう
どこまでも
高く