〈追悼〉谷川俊太郎さん
詩を書くことは 5
詩を書くことは 森をざわめかせること
風を吹かせて 鳥を歌わせて 鹿を鳴かせること
緑色の血管のような道が 奥まで続いているから
羊の群れを 通り抜けさせようとすること
詩を読むことは 森を静まらせること
大きな木は おしゃべりを止めようとしない
もう眠る時間だと 一つ一つ 説いてまわること
あきらめることなく こつこつ じっくりと
歩きつづけていくと
風の吹く 小高い丘があり そこへ集まる
たき火をする男と女たちの耳は 何億回も
木のかけらが燃え 爆ぜる音をとらえて
愛する 育む 失う 寂しむ
感情のすべてが樹木の姿となり
群生している どこかで煙があがる
ゆるぎない人々の暮らしの
火がある
その温度を教えてほしい