〈追悼〉谷川俊太郎さん

詩を書くことは 6

詩を書くことは 失われた命と暮らしに
祈りを込めること 刻む 時計の音に
耳を澄ますこと 冬の寒い風に
言葉の明かりを灯して 
空のかなたを 見あげること

詩を読むことは 声をひろうこと
三〇年前の 地の震えの未明の恐ろしさと
無数の涙のあとを 文字の連なりの息に
たどっていくこと ソプラノの優しい歌声が
濡れた人々の頬を 撫でていったのを浮かべること

歳月が過ぎても 昨日のように隣にある
一日がある 沈黙の闇に
それでも与えられる しなやかな光がある
私たちの心の 蝋燭の上で揺れているのは
言いあらわせない 悲しみと
喪失と 暮らしと 歳月の姿である

1月17日 午前5時46分

暗がりに 静かな炎が
照らし出そうとする 
想いを いつまでも失わないように
守っていこうとする この時を 
分かち合いたい 無数のキャンドルに

わたしたちは 一つの火だ

2025.04.02更新