〈追悼〉谷川俊太郎さん
詩を書くことは 7
詩を書こうとすること
空から降るものに耳を澄ますこと
光 雨 鳥 意味
それらが地上に降り立って 人間の姿になるとき
流せなかった涙が 心に満ちていることに気づくこと
詩を読もうとすること
風の匂いを吸い込むこと
透明な酸素と どこまでも語り合うようにして
雲の間を歩いている人の言葉を 行間に見つけること
空気の静けさのなかに 聞こえない滝の音を聴くこと
わたしたちの心と体は
言葉にならないもので出来ている
それをどうして こんなにも 切ないほどに
誰かに伝えたくなってしまうのだろう
やがて どこまでもやはり孤独なのだと気づくとき
わたしとあなたの影が
詩そのものであったことにはっとさせられるのだ
そうして 深呼吸して わたしたちは生きるのだ
束ねられるのだ
一冊になるのだ
詩集として机のうえに置かれて
静かに
めくられてしまうと
水しぶきがあがるのだ