震災後、講演会へ出かけると色々なところで、福島の方言が好きですと言われることが多くなった。
 福島へのまなざしが高いこともあるのだろう。一つ二つ披露したりすると、もっと聞きたいと言われたり、美しくて優しい言葉の響きだと褒められたりする。私の方言もまんざらではないのかも…などと、自己満足。
 職場へと向かう道すがら、自動販売機で缶ジュースを求める。缶を手にした瞬間に、自動販売機のスピーカーから、私に語りかけてくれるおばあさんの声。「どうもない。気をつけていってこらんしょよ」。朝の通勤の緊張がふっと和む。
 自販機の取り出し口の横には、声の主はこの方ですよと写真入りで紹介されているところが、面白い。話しかけられている気持ちになる。録音された声ではあるけれど…、こんなふうに方言を交わす方法もあるんだなあ、と新しさを感じる。
 一つ一つの言い回しに福島の精神が宿っている。福島人の心の在りかは私たちが話している、目の前の一粒一粒に託されているといっても良いのかもしれない。福島の言葉を忘れない<方法>を考える。それがそのまま故郷と見つめ合う確かな時になる。

(初出「福島民報」誌連載より)

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2012.07.20更新