和合亮一オフィシャルホームページ

11 足跡

白い紙を広げて考え込んでいると
ふと 静かな靴の音が聞こえてくる
書きたいと思っていることが
ゆっくりと足を動かして近づいてくる

大きなはっきりとした両足の音が
ふと それを追い抜いていく
今日という一日の時間が
通り過ぎていったのかもしれない

はるか遠くを駆ける白い裸足がある その音が
こちらまで 聞こえているのか そうではないのか
なぜそんなに 急いでいるのか その裏が光って 
矢のようになって 消えた気がした

遠ざかっていく たくさんの足がある
この事実こそを 僕は記したいのだけれど
白さが目にまぶしいばかりだ 足跡で汚れた 
原稿用紙ばかり 散らばっている