1

あなたの 心の中に 
桜の樹がある 風に吹かれている 
そして 少しずつ 
その つぼみを 開こうとしている 
だから ゆっくりと それを見つめるといい 
涙を隠してはいけない 心を隠してはいけない 

あなたの 心の中に 
桜の樹がある 
風が 風を追いかけているから 
そして つぼみが 葉が 揺れているから 
ゆっくりと それを見つめるといい 
そして 生きていかなくてはいけない  

  ✳

桜のつぼみが揺れる 
子どもの遊ぶ声がする 
犬の鳴き声がする 
車のエンジンの音がする 
風の音がする 
朝食の支度をする音が聞える 
旗が揺れている 
靴を磨いている音がする 
新聞を開く音がする 
コーヒーの香りがする 
ホームに並ぶ人々の深呼吸と 
波の音がする 
世界の朝が目を開く 
ソプラノ 
歌が聞える

  2

桜がさわぐ
わたしの想い 
桜と
桜の影が揺れる

桜がささやく
わたしの記憶 
桜が
桜の影とささやく

風が止む
わたしの悲しみ 
桜と
桜の影が止まる

桜が色づく
わたしのあやまち
桜の
桜の影が色づく

  3

はるか

遠い

草原の

果ての

 一本の桜の樹よ

 つぼみよ

 心の中の

 あなた

はるかな

あなた

  4

一つのささやきが また 一つのささやきをもたらす 一つの忠告が また 一つの忠告をもたらす 一つの叫びが また 一つの叫びをもたらす 一つの優しい言葉が また 一つの優しさをもたらす こんなふうに一日は また 一日を連れてくる 桜のつぼみよ 

あなたに会うことができること 今日の夜空に星が輝くこと どちらもとてもよく似ている あなたのことを信じることができなければ 宇宙の本当の大きさを知ることは出来ない だから信じよう 宇宙の大きさが計り知れないぐらい あなたへの想いも計り知れないから

  ✳

 春の雨が降って 濡れたままにするしかない 悲しみがある どこから 雨はやってくるの いつ やむの 誰にも探せないまま 春の石ころは 道端に転がっている 雨に 濡れている 濡れている 桜が 咲いている 咲いている

 春の雨が降って 濡れたままにするしかない 悲しみがある あなたの 涙は 果てしない 降り続く雨は 空を征服して やむことがない ああ こんなにも あなたは 悲しみ続けている わたしは あなたの代わりにはなれない だけど あなたと共に 雨に濡れることなら できる 

 春の雨が降って 濡れたままにするしかない 涙がある いま 鳥のさえずりが 聞こえた あなたの耳にも 届きましたか わたしの 心の つぶやきが あなたの 深い 悲しみは やむことがない だけど わたしは 鳥のさえずりを 集めたい あなたに 手渡したい 空の広がりを 雨のぬくもりを   
       
  5

わたしの 
ほんとうの 
こころ 
を 
あなたに 
ささげます 
それは 
はるかかなたの 
うみのひかり 
はるかかなたの 
もりをふくかぜ 
はるかかなたの 
あさのめざめ 
はるかかなたの 
とおい 
くに 
の 
あなたに 
つぶやきます
はるかかなた

 わたしの 
 ほんとうの 
 こころ 
 を 
 あなたに 
 ささげます 
 わたし 
 ひとりは 
 ほんとうに 
 かなしい 
 わたし 
 ひとりは 
 ほんとうに 
 かよわい 
 わたし 
 ひとりは 
 ほんとうに
 ちいさい 
 こころ 
 ことば 
 ちから 
 なみだ 
 だから 
 あなた 
 と 
 てを 
 つなげごう 
 
わたしの 
ほんとうの 
かなしみを 
あなたに 
つたえたい 
わたしは 
よるにちかい 
ゆうぐれです 
わたしは 
さくらのきです 
ひるさがりです 
わたしは 
ことばのない 
よあけです 
それでも 
きえない 
つよい 
いのちを 
あなたに 
てわたしたい 
そらのおくで 
かなたののはらで
あなたとほほえみあう 
まどべで 

さくらのつぼみが
ゆれているから
さくらのつぼみが
ゆれているから

  6

つぼみは
力をみなぎらせて
その内側で
騒いでいます

つぼみは
命の意味を知りたいのです
その内側で
火を灯しています

私たちもまた
命を知りたいから
心のどこかに
火を灯しています

桜の樹
そこにあるつぼみは
季節の力をみなぎらせて


山や丘や川
雲と土手と家明かり
福島
ふるさと
そのものが
あなたとわたし
そのものが

つぼみです
福島に生きる
福島を生きる

わたしたち
それぞれ一人一人が
福島に立つ
一本の樹

桜がささやきます
しだれます

 あなたはわたしのいのちのみなもとです
 わたしはあなたのいのちのみなもとです

涙がこぼれます

ああ語ることを
止めない春よ

桜の樹のなかを
つぼみのなかを
歩いている花と
語ることを止めない季節よ

桜の樹のなかを歩いている
桜の命よ

 きみはあの日 美しい帆を見つけたか
 きみはあの日 夕焼けを追いかけたか
 きみはあの日 子どもの柔らかな髪の分かれ目を撫でたか
 きみはあの日 満月を見あげたか

そしてさらなる
夜明けに

やってくるものよ
つぼみの中で眼を開く

光の中にある
花の涙を知ってほしい

桜の中にある
光の涙を知ってほしい

  ✳

桜の樹がある 風に吹かれている 
少しずつ 
その つぼみを 開こうとしている 
だから ゆっくりと それを見つめるといい 

桜の樹がある 
風が 風を追いかけているから 
そして つぼみが 葉が 揺れている
だから ゆっくりと それを見つめるといい 

桜のつぼみが揺れる 
子どもの遊ぶ声がする 
犬の鳴き声がする 
車のエンジンの音がする 
風の音がする 
朝食の支度をする音が聞える 
旗が揺れている 
靴を磨いている音がする 
新聞を開く音がする 
コーヒーの香りがする 
ホームに並ぶ人々の深呼吸と 
波の音がする 
世界の朝が目を開く 
ソプラノ 
子どもたちの
歌が聞える

「宇宙 地球 
日本 福島
いま ここ 
国見 国見」

いま ここ

桜の花が
咲いた


4月13日  第10回「国見町桜のうた」記念講演会

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2014.05.17更新