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明けない夜は無い おやすみなさい
あさのはじまり ノックをするように まばたきをいくつか そのたびに あたらしくなる なにかがある あなたをおもうきもちが めざめていく そらに くもは しずかにうごいている あなたのねむりが やさしく あさく なっていく
わたしは 夜明け前に 雲になり 風になり 鳥になり 花になり 森になり 小川になり ほの暗い あぜ道を行く 農夫の 口笛になり 台所で 洗われている 米の粒の 一つ一つになり 太陽の光が 降りそそぎ わたしは わたしに 目が覚めるのです
夕焼けも 雲も 歩道橋も 自転車も 電信柱も 空飛ぶ飛行機も 街の影も ぼくよりも少し 背の低い きみも みな 素敵な 腕時計をしています どれも 一分ぐらい 遅れています そんなとき 六月は 暮れかかります
生きることに疲れてしまったのなら 椅子の背にもたれかかって 自分が生まれる前の時代の はるかな異国の街の 朝に置かれた一杯の そのコーヒーの香りを 思ってみるといい
わたしは忘れられてしまった白い傘です 座席の手すりに置かれているまま わたしたちのふるさとは どこなのでしょう みんなでそこへと 本当は 帰りたいのに みんな なすすべもなく 丁寧に折られて 畳まれて わたしと同じく 置き去りにされて 列車に揺られて
わたしは忘れられてしまった白い傘です 座席の手すりに置かれているまま 丁寧に折られて畳まれています 今朝は 激しい雨が降っていました それが昼下がりには止んでしまった 主人は 帰り道にはもう わたしなど要らなくなってしまったようです これからも晴れの日があれば 雨の日があるのに
あなたの故郷は 今日のあなたに 優しい顔をしていますか あの日に失われた国 この日本のどこかで
大きな見出しばかりに見とれて 大きな声に耳を奪われていると 小さな見出しを探したり 小さな声に耳を傾けることを 忘れてしまいがちになります 気づいてください わたしたちの毎日は 小さな見出しなのです 小さな声なのです
死んでしまいたい そんな時があるって聞かされると わたしは次の言葉をかけられなくなってしまうのです わたしだって何度も そんなふうに思う夜があるから 眼をつぶってあなたと二人 裸足で暗い道を歩いている気持ちになります だから わたしと 手をしっかりと握って 眼を開きませんか
たった一人で生きてはいけないことにはっきりと気づかされるとき それは 自分が本当に孤独な存在であることを認めたくないときでもある だけどそんな深い寂しさを知って分かることもある あなたを たった一人にしてはいけないのだということを
力が湧いてこないときほど 忙しい仕事が山積みで声をあげたくなるけれど そんなときほど誰もが同じように忙しいから 話しなんて落ち着いて聞いてくれないものだ だから窓を開けてしばらく呆然としてみるといい あなたにもわたしにも 飛行機雲が見つかるはずです 同じ未来を見つめているから
許せない怒りがこみあげているけれど それをぶつけるわけにもいかなくて そんなときは まず深呼吸することにしている でも それでもおさまらないものが 本当の怒りなのですけれど 深く 息を吸います 吐く やられたら やり返すじゃだめなんだって 少しだけ 思いつくのです もう一度
わたしなんて 何の役にも立たないと思ってしまう そんな時は 口笛を吹く そして 思い浮かぶメロディを 口ずさむ 出来れば 大声で歌ってみる 誰も聞いていないけれど わたしは聞いている たった一人のこの部屋で あるいは森の小道で 真昼の駅の地下の雑踏で わたしは聞いています
詩の礫