朝の六時の終わり頃の列車で、この春から本宮高校へと通うこととになった。

 歩きと電車とを合わせておよそ片道一時間半。これまでの勤務は全て自家用車だった。十分もかからない通勤も経験してきた。

 今までにない毎日である。東京の友人につまりは往復三時間だと話した。「それは関東では当たり前のことだ」と切り返された。

 電車に乗っている間、本を開く。向いも隣も、そうしている方が多い。何を読んでいるのか、いささか気になる。ちらりと本の表紙やその表情を眺めながら、朝の共にある心の中の静けさを思う。

 活字に夢中になっている人と一緒にいるのは心地よい。こちらも書物を自然に開きたくなる。安達太良山の姿。本宮駅に到着。

 学校では、「朝の読書」の時間が設けられている。十分間、好きな本を読む。生徒たちの後ろに座り、列車を降りる時にしおりをはさんでいたところを開く。若者たちが黙々と言葉と向かい合っている姿は美しい。〈静けさ〉が深まる 

 帰り道。列車では朝の続きを読む。福島駅に降りると駅の書店へと足が向かう。新しい一冊を探してみる。

 めぐる私の春。「本宮」。地名を見つめる。ここにも「本」。

(初出「福島民報」誌連載より)

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2014.05.17更新