学校からの帰り道にカエルの卵を見つけると、すぐさま家に戻り、バケツに入れて持って行く。玄関の下にそれを置いておく。
 しばらくすると、楽譜からこぼれてきたような小さなおたまじゃくしになる。麩をちぎってあげると吸い寄せられて食べ始める。
 その姿が可愛らしい。そうしているうちに音符たちはあっという間に大きくなり、足が出来て、手が生える。
 この頃になると、バケツから飛び出すものがたくさん現れてくるので、近くの田んぼに放す。そうして鳴いているカエルたちの歌声の、どこに混じっているのかなあ…などと夕方や眠る前に想ってみたりするのが好きだった。幼い心の中には、いつまでも彼らの〈音符〉の姿が、消えない像として残っていた。
思えばランドセルをしょっての帰り道は、横にずっと田、田、田と続いていた。満々と水を張られた水田に美しく整えられた稲が整列する。子どもたちはその間に、様々な生き物たちの影を探す。
 カエルの他に、ザリガニ、ドジョウ、アメンボ、ヤゴ、コブナ…。木陰で休息をとる馬たちのように、若々しい葉の下でじっとしている。これが私たちのふるさとだと知って。
   

(初出「福島民報」誌連載より)

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2012.06.08更新